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2012.10.19 Friday

阿部薫の初期音源が発掘されたのだが…

阿部薫4枚組
(左が4枚組ボックス、右の2枚はDIWからリリースされた高柳・阿部のデュオ)

 今年(2012年)1月に『阿部薫CD BOX 1970〜1973』という7枚組のCDが発売されたのだが、うち6枚が既発音源で残る未発表音源が期待はずれだったこともあり(この7枚組には他にも期待を裏切る部分があったがそれは別項にて)、続いて5月に出た4枚組の『阿部薫 未発表+初期音源』は買っておいたものの今まで聴かずじまいだった。
 放置していたのはそのうちAmazonにレビューのひとつも載るだろうと思っていたから敢えて時間を割くこともないと考えていたせいでもある。『スイング・ジャーナル』が休刊してから新譜情報については後継誌である『ジャズ・ジャパン』が劣化版『ジャズ・ライフ』様の出来で読む気にならず、『ジャズ・ライフ』は新生になってから心許ない。かと言って『ジャズ批評』はとうの昔に同人誌未満のクォリティーとなり終わっている(間章が示したものとは別の意味でジャズは死滅したのだろう)。内容確認であればAmazonの素人レビューがあれば不便ながらもなんとかなるので、その感覚に慣らされていたせいかもしれない。しかしどんなに情報量が増えてもネット媒体は伝達の仕方が直線的で比較や思考の場では使い勝手が悪過ぎる。返す返すも紙媒体の有用さを思い知るばかりである。

 この4枚組はDIWより既発の高柳昌行とのデュオ2タイトル分に加えて73年ソロと収録日時未詳のデュオ音源を1枚ずつ追加したとセールスコピーに謳われているのだが…。7枚組同様に個別のジャケットはなく、4枚収納仕様のボックスに入れられている。録音年月日とメンバーがわからないだけではなく(これも7枚組同様に)解説書も付けられていない。mixiにも「解説はないのか」というコメントがあった…この仕様に関しては制作者の意図を計りかねる。
 ということで、まず既発音源である2枚をDIWリリースの番号と対比させておくと、
  • DISC 1>高柳昌行・阿部薫 漸次投射(DIW-425)
  • DISC 2>高柳昌行・阿部薫 集団投射(DIW-424)
となるが、こちらについてはDIW版リリースの遥か前、録音の存在を知った時点から『Gモダ〜ン』誌上で散々紹介してきたこともあり、聴いてはみたものの(期待していた)リマスターが施されているようでもないので割愛する。新たに加えられているものは
  • DISC 3>阿部薫SOLO(1973年未発表音源)
  • DISC 4>阿部薫DUO(初期未発表音源)
DISC 3のソロ演奏は3曲およそ計50分。「7枚組」に収録された「SOLO 1973」に比べ格別の違いがある。後期(晩年と呼ぶには短い生涯なので)の「騒」録音などと比べると間合いの取り方などがフリージャズ“らしさ”を感じさせるもので、勢いや鋭さといった面では既出のPSF音源(7枚組のDISC 1〜6)や同年スタジオ録音の『彗星パルティータ』より劣った印象が否めないものの、これだけを聴いても十分価値あるものと思える。

 さて、ここまでの前置きが長くなったが衝撃はDISC 4にあった。メンバー・日時・場所は未詳となっている。順を追って解説すると1曲めが(データ上では)8分57秒のバスクラとドラムのデュオ。音質は既発のものに比べて悪いが両者とも演奏はかなり攻撃的で好演である。マイクに物が触れたりレベルオーバーで音が頭打ちになったりすることはあるが個人的には気にならなかった。2曲めはおそらく同メンバーでのアルトとドラムのデュオで長尺の31分27秒。コルトレーンとラシッド・アリの『ライヴ・イン・ジャパン』を連想させるような激しいバトルだ。トラックの終端部で音が極端に小さくなるがカセットテープのリード部分に録音されているためかもしれない。3曲めもアルトとドラムのデュオで、なぜか極端に短く1分58秒。このトラックだけを採り上げればなくともよいと感じるのだが、2曲めの続きと考えれば意味が理解できる(このシリーズはカセットデンスケで録音されているのでこういうことが起こったのだろう)。ここまでは演奏の優劣や録音状態が気になるだけで大きな驚きはなかったのだが…これ以降に“宣伝に偽りあり”の衝撃があった。4曲めは16分22秒のトラックなのだが何やらおかしなことになっている…デュオではない…明らかに別の奏者がいる。5分を過ぎるあたりからそれが確信へと変る。演奏開始はアルトとドラムが聞こえているのだが、途中からテナーの音が入っているのがわかり、アルトの音はバスクラやフルートに変る。3人かと思っていたら6分過ぎにハーモニカが入ってくるや、バスクラとテナーが同時には演奏できないフレーズを奏でている。ドラムを含めて4人での演奏かもしれない。このトラックは自己主張ばかりで延々と斬り合いを見せられているばかりで、デュオではないという事実確認が先にたち判断に迷うところだ。そして最大の衝撃はラストトラックである8分44秒の5曲めにあった。演奏開始から弦による低めの持続音が入って来るが、前のトラックの印象もあってかベースのボウイングなのかと思っていた。しばらくするとそれがギターであることがわかり…間もなく奏法からそのギターが高柳昌行であるという揺るぎない思いに変った。ということはどう考えても1970年の阿部薫と高柳昌行、山崎弘であろう。このトリオ演奏の録音が存在したことが既に“事件”であり、短いながらも世に出されたことは感謝の思いに堪えない。トラックの時間から考えてもこの日の演奏がこれだけで終わったとは考えにくく、その上で判断するしかないがこのディスクに収められている5曲の中では抑制のきいた秀逸な出来だ。ともかく演奏の出来を云々するよりも衝撃の方が大きく、正常な判断が下せるものではないので落ち着いてところで追記するつもりだ。ともあれ、DIW版の高柳・阿部のデュオを既に持っている方にとってもDISC 4だけで十分購入価値がある。
(2012年10月19日初稿/10月20日加筆)

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